建設業界では、現場と本社の距離、複数の協力会社との連携、工事案件ごとの独立採算など、他業種にはない特有の組織構造があります。
これにより、誰が・どこまで・どのように意思決定するかが明確でないことがあり「決裁・権限マネジメント」を明確にしていくことが、業務効率と内部統制の両面で極めて重要です。
2025年現在、建設業界ではDX推進と電子帳簿保存法対応が進む中、稟議や承認プロセスのデジタル化、職務権限規程の整備、ガバナンス強化が経営課題として注目されています。
本記事では、建設業における決裁・権限マネジメントの基本から実践的な導入手法まで、体系的に解説します。
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なぜ建設業に「決裁権限マネジメント」が必要なのか?

組織の意思決定がスピーディーに行われることは、業務のスピード、効率が向上するだけでなく、不正や情報漏洩を防ぎ、内部統制を強化することにつながります。
建設業は、他の業種にはない特有の組織構造からこの決裁権限マネジメントが煩雑になりがちです。
それにより業務スピードや効率に影響が出ていることも多く、経営層の負担軽減、組織の競争力強化、事業継続性と成長のためにも早急な対応が必要になるのです。
建設業特有の組織課題
・現場と本社の物理的な距離
建設業では、現場で独自の判断を求められることも多く、各現場に責任者が存在するなど、組織がとても複雑です。
本社と現場で物理的な距離があることから、現場で即判断しなければならないことも多く、工事責任者が独自の判断をするなどにより、権限の所在が曖昧になりがちです。
これは建設業ならではの課題となっています。
・複数の協力会社との連携
建設業では、複数の協力会社と連携を図ります。
そのため、 元請・下請間での契約変更や追加発注の判断において、決裁権限が不明確だとトラブルの原因になりかねません。
・工事案件ごとの独立採算制
各現場、各工事により発生する経費精算、資材発注、変更契約などの承認フローが複雑化している点も問題となります。
決裁・権限管理の不備がもたらすリスク
決裁・権限管理に関して、体制が整っていないと、業務の停滞や不正、ミスの発生など業務上の問題だけでなく、企業の信用力低下といったリスクも生じます。
承認権限は、〇〇円までは部長決裁、○○円以上は社長決裁などしっかりと決めておくことで、意思決定の遅延による機会損失を防ぐことにつながります。
業務を停滞させないためにはスピーディーな意思決定、決裁が必要になってきます。
しかし、ここで承認プロセスが曖昧になっていると、不適切な支出が発生したり、知らない間に契約が成立していたというようなミスにもつながりかねません。
取引や契約の細かな内容は、 監査や金融機関の評価で問題視されますので、ここに大きな問題が生じていると会社の信用力が低下してしまいます。
そのような事態を起こさないためにも、決裁・権限管理をしっかり整えておくことが重要です。
2025年の建設業界を取り巻く環境変化
2025年、建設業界には大きな環境の変化が起きています。
特にDXの加速という点では、すぐに対応できず混乱している企業も多いでしょう。
DX化の加速では、特に書類の取り扱いや承認業務のデジタル化が急務となっています。
書類の取り扱いでは、電子帳簿保存法に対応していかなければならず、 決裁プロセスと証憑管理の一体化が求められています。
また、働き方改革の影響もあり本社や現場ではない場所からのリモート承認(モバイル決裁)も対応が急がれています。
これらの対応が進んでいる企業ほど、 金融機関や発注者からの信頼性が向上しやすく、競争力に直結します。
「決裁」「承認」「稟議」の定義
決裁権限について決める際に、決裁・承認・稟議の違いについて把握しておかなければいけません。
なお、建設業では、現場関係者や関連部署が多く存在するため、承認プロセスが増え、決裁まで時間がかかりがちです。
それぞれの定義・役割をまとめます。
| 用語 |
定義 |
役割 |
| 稟議(りんぎ) |
複数の関係者から段階的に承認を得て、最終的な決裁に至るプロセス全体 |
組織内で合意形成を図り、透明性を確保 |
| 承認(しょうにん) |
中間段階での上長や関係部署のチェック・同意 |
内容の妥当性を確認し、リスクを防ぐ |
| 決裁(けっさい) |
最終的な意思決定者(決裁権者)による判断と承認 |
組織として正式に意思決定を行う |
建設業における標準的な決裁フロー例は、下記のとおりです。
① 起案: 現場担当者・工事責任者が稟議書を起案。
② 承認1: 工事部門の管理者(工事課長・部長)が内容を確認・承認。
③ 承認2: 関連部署(積算・購買・経理など)が横断的にチェック。
④決裁: 決裁権限規程に基づき、取締役や社長が最終決裁。
⑤ 実行: 決裁後、発注・契約締結などの実務を実行。
⑥記録・保管: 決裁済み書類を電子帳簿保存法に準拠して保管。
決裁権限を設定する際は、金額・職務・案件により設定するのが一般的です。
金額基準では、契約の金額や購入の金額に応じて部長クラス、取締役、社長など決裁者が設定されます。
職務基準では、職位・役職に応じて決裁の範囲を取り決めます。
これらの範囲は職務権限規程として社内規定に記します。
規程として定めることで明確になります。
案件基準では、 工事案件の種類や重要度によって決裁ルート(承認者)を分けて決裁します。
「決裁」「承認」「稟議」の定義
決裁・承認について範囲を決めたら権限表としてまとめ、誰でもすぐに確認できるようにしておきましょう。
決裁権限表の作成例
| 決裁項目 |
部長 |
取締役 |
代表取締役 |
| 工事契約(1千万円未満) |
◎ |
– |
– |
| 工事契約(1千万円以上5千万円未満) |
承認 |
◎ |
– |
| 工事契約(5千万円以上) |
承認 |
承認 |
◎ |
| 資材発注(500万円未満) |
◎ |
– |
– |
| 資材発注(500万円以上) |
承認 |
◎ |
– |
(◎:決裁者、承認:承認者)
ワークフローシステムによる電子決裁の導入
申請から承認、決裁までの業務をよりスムーズに行っていくためには、ワークフローシステムの導入が便利です。
導入により、稟議書・経費精算書・契約書などの申請・承認プロセスを電子化し、自動的に承認ルートを流すシステムが構築されます。
建設業では、現場と本社の距離や多拠点展開により、紙ベースの決裁が遅延しやすいため、電子決裁システムを導入することで業務効率化と決裁までのスピードアップに大きく貢献してくれます。
ワークフローシステムでは、 申請書フォームの作成や 承認ルートの自動設定、 進捗の可視化、 通知機能(メール・アプリ)、 履歴管理・監査証跡、 外部システム連携(会計・ERPなど)などが行えます。
建設業がワークフローシステムを導入するメリット
ワークフローシステムを導入することで、決裁スピードが向上します。
現場や出張先からもスマホやタブレットを使用して申請、承認が可能なため、業務が滞ることがありません。
また、申請書の作成・検索・保管が電子化されるので、事務作業も減り業務効率化につながります。
同時に、電子取引データの保存要件を満たす書類管理もスムーズです。
ワークフローに則って業務が進みますので、決裁プロセスが可視化され、不正や誤謬のリスクも低減します。
まとめ

建設業界では、誰が・どこまで・どのように意思決定するかを明確にする「決裁・権限マネジメント」が、業務効率と内部統制の両面で極めて重要です。
2025年の建設業界は、DX推進、電子帳簿保存法対応、働き方改革、ガバナンス強化など、多くの変革に直面しています。
決裁・権限マネジメントの整備は、これらの変化に対応し、競争力のある強い組織を構築するための基盤となります。
企業の信頼性を高めていくためにも、できるだけ早く自社の決裁・権限マネジメント改善に取り組んでください。