建設業は他の業種と比べて資金繰りが厳しくなりやすい業種です。
工事代金の入金前に多額の材料費や人件費を支払う必要があり、慢性的な資金不足に悩む経営者の方も少なくありません。
本記事では、建設業特有の資金繰り課題を明らかにし、効果的な資金調達方法について詳しく解説します。
資金調達の選択肢を知ることで、安定した経営基盤を築くヒントが見つかるはずです。
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建設業が資金調達を必要とする理由|業界特有の3つの構造的課題

建設業の資金繰りが厳しい理由は、単なる経営の問題ではなく、業界構造に起因する課題があります。
多くの建設会社が同じ悩みを抱えているのは、ここで紹介する3つの構造的な問題が存在するためです。
これらの課題を正しく理解することが、適切な資金調達戦略を立てる第一歩となります。
①支払いが先行する「逆ザヤ構造」
建設業の最大の課題は、売上よりも先に支出が発生する「逆ザヤ構造」です。
工事を開始すると同時に、建設資材の購入費用、作業員の人件費、重機のレンタル料など、さまざまな費用を支払わなければなりません。
一方で、工事代金の入金は工事完成後となるため、工事期間中は一方的に資金が流出し続ける状態になります。
特に大型工事の場合、工事期間が数ヶ月から数年に及ぶこともあり、その間ずっと資金を立て替え続ける必要があります。
入金までのサイクルは平均で60~90日と長期化しており、この期間の運転資金を確保できなければ、黒字倒産のリスクさえあります。
売上は計上されているのに手元に現金がない、という建設業特有のジレンマがここにあるのです。
②入金サイトの長期化問題
建設業では、工事が完成してから実際に代金が入金されるまでに、非常に長い時間がかかります。
工事完成後も、検収手続きや請求書の発行、承認プロセスなど、複雑な手続きを経る必要があり、これらに1ヶ月以上かかることも珍しくありません。
さらに建設業界特有の下請け構造も、入金サイクルの長期化に拍車をかけています。
元請け→一次下請け→二次下請けという多層構造の中で、上位の会社からの入金が遅れると、その影響が下位の会社に連鎖的に波及します。
特に小規模な下請け業者ほど、資金体力が乏しいため、入金遅延の影響を強く受けてしまいます。
このような入金サイトの長期化は、企業の資金繰りを慢性的に圧迫し、経営の安定性を損なう大きな要因となっています。
③手形取引の多さ(2026年廃止予定)
建設業界では長年、約束手形による決済が一般的に行われてきました。
手形は支払期日まで現金化できないため、受け取っても即座に運転資金として活用できないという問題があります。
手形割引を利用すれば早期に現金化できますが、手数料がかかるため実質的な受取額が減少してしまいます。
そして2026年度末には、この約束手形が廃止される予定です。
一見すると資金繰りが改善されるように思えますが、実際には現金決済への移行により、支払い側の企業は一時的に大きな資金需要が発生します。
これまで手形で支払猶予を得ていた分を、現金で即座に支払わなければならなくなるためです。
手形廃止までの準備期間は残りわずかです。
今から資金調達手段を確保し、現金決済に対応できる体制を整えることが、建設業経営者にとって喫緊の課題となっています。
建設業におすすめの資金調達方法5選|特徴・メリット・デメリットを比較
資金繰り課題を解決するには、自社の状況に合った資金調達方法を選ぶことが重要です。
ここでは建設業におすすめの5つの資金調達方法について、それぞれの特徴、メリット、デメリットを詳しく解説します。
一つの方法に頼るのではなく、複数の手段を組み合わせることで、より安定した資金調達が可能になります。
①日本政策金融公庫の融資制度
公的金融機関である日本政策金融公庫は、建設業の資金調達において最初に検討すべき選択肢です。
金利は1.0%~2.5%程度と低く、新創業融資制度なら無担保・無保証で借入可能です。
融資枠は最大7,200万円で、建設業向けの「地域建設業経営強化融資制度」も用意されています。
実績が少ない企業でも借入でき、最長20年の長期返済が可能な点が大きなメリットです。
ただし、審査には1~2ヶ月程度かかり、提出書類も多いため、計画的な申請が必要です。
審査通過率は約50~60%とされています。
②信用保証協会付き融資
信用保証協会が保証人となることで、金融機関からの融資を受けやすくする制度です。
無担保で最大8,000万円、普通保証で2億円まで調達可能です。
プロパー融資を受けにくい中小企業でも借入でき、万が一の際は保証協会が代位弁済してくれる安心感があります。
デメリットとしては、保証料が0.5~2.0%程度必要になることと、審査に時間がかかる点、そして経営者保証が求められることが多い点が挙げられます。
③民間金融機関の融資(銀行・信用金庫)
民間金融機関からの融資は、規模や目的に応じて選択肢が豊富にあります。
メガバンク、地方銀行、信用金庫など、それぞれ特徴が異なるため、自社の状況に合わせて選ぶことが重要です。
メガバンクは数億円規模の大型融資に対応でき、金利も0.5~1.5%と最も低い水準です。
全国展開している大手建設会社や、大型プロジェクトを手がける企業に適しています。
ただし、審査基準が非常に厳しく、財務状況が健全で十分な担保や実績がある企業でないと、融資を受けるのは難しいでしょう。
地方銀行は地域密着型のサポートが特徴で、数百万円~数千万円規模の融資を得意としています。
地域の建設業の実情を理解しているため、相談しやすく、保証協会付き融資を中心に柔軟な対応をしてくれることが多いです。
地域での事業実績を重視するため、地元で長く事業を営んでいる企業にとっては利用しやすい選択肢です。
信用金庫は小規模事業者に最も親身になってくれる金融機関です。
金利はやや高めで1.5~3.0%程度ですが、地域での信頼関係を重視するため、大手銀行では相手にされにくい小規模な建設会社でも融資を受けられる可能性があります。
経営相談にも親身に乗ってくれることが多く、初めて融資を受ける企業にとっては心強いパートナーとなるでしょう。
④ファクタリング(売掛金の早期資金化)
売掛金を最短即日で現金化できる資金調達方法です。
負債にならず、審査が早い(最短2時間~1日)点が最大のメリットです。
信用情報にも影響せず、取引先の倒産リスクを転嫁できるノンリコース型もあります。
ただし、手数料が2~20%と高く、売掛金の額面以上は調達できません。
また、悪質業者も存在するため、金融庁や経済産業省が注意喚起を行っています。
利用する際は信頼できる業者を選ぶことが重要です。
⑤補助金・助成金の活用
返済不要の資金調達方法として、補助金や助成金があります。
ものづくり補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金などの補助金や、人材確保等支援助成金、業務改善助成金などの助成金が活用できます。
設備投資や人材育成の後押しになる一方、申請・審査に時間がかかり、補助金の場合は採択率が低いこと、そして後払いのため一旦自己資金で立替が必要な点がデメリットです。
資金調達を成功させる3つのポイント
資金調達方法を知るだけでは不十分です。
実際に融資や資金調達を成功させるには、日頃からの準備と戦略的な取り組みが必要です。
ここでは、金融機関からの信頼を得て、有利な条件で資金調達を実現するための3つの重要ポイントを解説します。
①資金繰り表・キャッシュフロー計算書の作成
資金繰り表の作成は、建設業の経営管理において最も重要な取り組みの一つです。
損益計算書では利益が出ていても、実際には資金不足で倒産する「黒字倒産」を防ぐには、キャッシュフローの「見える化」が不可欠です。
資金繰り表を作成することで、3ヶ月後、6ヶ月後にどれだけの資金が不足するのかを事前に把握できます。
これにより、資金が本当に必要になる前に、余裕を持って金融機関に相談できるようになります。
急ぎで融資を申し込むよりも、計画的に相談した方が審査も通りやすくなります。
②複数の金融機関との取引関係構築
一つの金融機関だけに依存するのは、資金調達においてリスクが高い戦略です。
その金融機関の方針変更や担当者の異動などで、融資が受けられなくなる可能性があるためです。
理想的なのは、信用金庫から始めて地方銀行、そしてメガバンクへと段階的に取引関係を構築していくことです。
まず小規模な融資で実績を作り、確実に返済することで信用を積み重ねます。
その実績を持って、より大きな金融機関との取引を開拓していくのです。
③経営事項審査(経審)の評点向上
建設業における経営事項審査(経審)の評点は、公共工事の入札参加だけでなく、金融機関の融資判断にも大きく影響します。
経審の評点が高い企業は、経営状態が健全であると判断され、融資が通りやすくなります。
特に重要なのは、自己資本比率の向上です。
2025年7月の改正では、資本性借入金を活用することで自己資本として評価される仕組みが導入されます。
これにより、財務体質を改善しやすくなりました。
建設業法・下請法で知っておくべき支払いルール
資金調達と同時に理解しておくべきなのが、建設業における支払いルールです。
建設業法や下請法には明確な支払期日が定められており、これを守ることは法的義務です。
元請けとして、また下請けとして、正しい知識を持つことで、不当な取引を防ぎ、健全な資金繰りを実現できます。
下請代金の支払期日(建設業法第24条の3)
建設業法第24条の3では、元請負人の支払義務について明確に定めています。
元請負人が注文者から出来高払いまたは竣工払いを受けた場合、その日から1ヶ月以内のできるだけ短い期間内に、下請負人に支払わなければなりません。
重要なのは、たとえ下請契約でより遅い支払期日が定められていても、その条項は無効となるという点です。
法律の規定が優先されるため、不当に長い支払サイトを押し付けられた場合は、法的に無効を主張できます。
この規定は、元請けの立場からは支払義務の明確化であり、下請けの立場からは権利の保護となります。
双方が正しく理解することで、公正な取引関係を築くことができます。
下請法(下請代金支払遅延等防止法)
下請法では、より詳細な支払いルールが定められています。
最も重要なのは、成果物を受領した日から60日以内に支払わなければならないという規定です。
この60日という期間は、検収や承認手続きを含めた期限であり、理由なく延長することはできません。
また、下請法では不当な減額の禁止も定められています。
工事完成後に一方的に代金を減額したり、追加工事の費用を支払わなかったりする行為は、明確に違反となります。
さらに、発注時には書面を交付する義務があり、口頭のみでの発注は認められていません。
これらの規定を守ることは、下請業者の資金繰りを守るだけでなく、元請企業のコンプライアンス面でも極めて重要です。
違反した場合、公正取引委員会からの勧告や企業名の公表など、社会的な制裁を受けるリスクがあります。
まとめ:建設業の資金調達は「計画性」と「多様性」が鍵

建設業の資金繰りを改善し、安定した経営を実現するには、業界特有の構造的課題を正しく理解することが出発点です。
逆ザヤ構造、入金サイトの長期化、手形取引といった課題は、一朝一夕には解決できませんが、適切な資金調達戦略によって乗り越えることができます。
重要なのは、一つの資金調達方法に依存するのではなく、複数の手段を組み合わせることです。
日本政策金融公庫や信用保証協会付き融資で長期的な資金を確保しつつ、短期的な資金需要にはファクタリングを活用する。
さらに補助金・助成金で設備投資や人材育成を進める。
このように状況に応じて使い分けることで、より柔軟で強固な財務基盤を構築できます。
2026年の手形廃止は、建設業界にとって大きな転換点となります。
今から資金繰り表を作成し、複数の金融機関との関係を構築し、経審評点の向上に取り組むことで、この変化を乗り切る準備を整えましょう。