電子帳簿保存法(電帳法)の改正への対応の必要性は認識しつつも、準備の複雑さから「対応を先送りしている」「まだ紙で保存している」という企業は少なくありません。
しかし、2024年1月以降、電子取引データの電子保存は義務化されています。
対応を先送りすることは、「リスクを蓄積している」ことと同じです。
本記事では、この義務化に対応しないことで生じる法的・実務的・信用的リスクを具体的にまとめています。
また、今すぐできないけれどどうしたらいいの?という場合にやっておくべきことについてもご紹介します。
電子帳簿保存法を導入しない場合の主なリスク

この章では、導入を先送りした場合に起こりうるリスクを整理します。
法令違反・罰則リスク
メールやクラウドで送受信した請求書・領収書などのデータを紙に出力して紙書類をで保存し続けることは、2024年1月以降、法令違反となっています。
リスクの具体例概要 スキャナ保存データや電子取引データが改ざんされ不正処理していることが税務調査で発覚した場合には、重加算税の加重措置を適用対象となり、通常の重加算税の税率に10%を加算した加算税が課されることになります。
青色申告の承認取消 帳簿書類の保存が法令に則して行われていない、重加算税が課されている金額が大きい、税務調査に非協力であるなどの事由を総合勘案した上で青色申告の承認が取り消されるリスクがあります。
承認が取り消されると青色申告の税制上の優遇措置を受けられなくなります。
また、会社法の過料リスク適切な帳簿保存が作成・保存されていないと、会社法上の帳簿保存義務違反として100万円以下の過料が科される可能性もあります。
業務効率の低下・コスト増加
法令対応の遅れは、日々の実務コストの増加に直結します。
紙での保存・検索・ファイリングは、電子データに比べ圧倒的に手間と時間がかかります。
また、紙の保管スペースの確保や印刷代、郵送代など、「紙運用」特有のコストも電子化が進むほど際立ってくるといえるでしょう。
ほとんどの企業が業務のデジタル化へ舵を切る中、旧態依然の紙運用を続けていくことは、業務全体の生産性向上も妨げてしまいます。
取引先・社会的信用の低下
電子取引が普及する中で、対応が送れてしまうことは社会的な信用に関わる問題になる恐れもあります。
取引先が電子請求書を発行しているにも関わらず、自社のために紙での対応を強いることは、取引先にとって手間となり、不信感につながります。
また、法令対応への姿勢は、その企業のコンプライアンス意識の現れと見なされることも多く、保存体制の整備が遅れていると、信用面で不利になるケースがあるでしょう。
導入しない=免除されるわけではない
多くの事業者が「まだ導入していなくても大丈夫」と思いがちですが、その認識には注意が必要です。
猶予期間の終わりと義務化の波
電子取引データの電子保存の義務化については、当初改正法令の施行後に一定の猶予期間が設けられ、電子取引データをデータで保存できないことに事情がある場合には紙に出力して保存することを認めていました。
しかし、その猶予期間は既に2023年12月31日をもって終了しています。
つまり、「対応しない=構えたまま放置」の状態は、法的リスクが顕在化しやすいフェーズに入ったことを意味します。
令和3年度の改正後の宥恕措置は、電子取引データの保存に当たり法令対応できないやむを得ない理由がある場合に宥恕措置の適用を受けることができます。
適用を受ける場合でも、改正前のように書面出力して整理保存することに加え、法令の対応をすることは不要ですが当該電子取引データも保存することが必要となり、書面とデータ両方を保存しどちらも税務調査時の調査官の提示や提出の求めに速やかに応じられるように保存する必要があります。
任意対応と義務対応の区別
取引書類とデータで保存する場合には以下の2種類の処理の区分があり、法令の対応範囲が異なります。
・スキャナ保存
紙で受領や作成した取引書類をスキャンして電子保存することをスキャナ保存といいで、こちらは義務ではなく任意でデータで保存することができる制度となります。
・電子取引データ保存
メールやクラウドなどで電子的に受領・発行した書類を電子保存することで、こちらはデータで保存することは義務となります。
「スキャナ保存は任意だから大丈夫」と誤解しがちですが、「電子取引データ保存」は義務のため、対応の範囲を誤ると、罰則リスクを負うことになります。
今すぐ「導入できない」なら最低限押さえておくべき実務対応
完全な電子保存システムの導入を先送りする場合でも、リスクを最小限に抑えるための「つなぎの対応」は必要です。
ただし、法令違反が継続している状態であることを強く認識してください。
以下の点をおさえ、管理を行ってください。
- 検索性の確保: 紙保存を続ける場合でも、取引日・金額・取引先が明確に識別・検索できる状態でファイリングし、即座に提示できるようにしておく。保存漏れがないように保存し税務調査に全面的に協力する姿勢をもって対応してください。
- 「やむを得ない理由」の明文化: 電子取引データを電子のまま保存できない「やむを得ない理由」を文書で明文化し、保存しておくことにより税務調査時の誠実性の証明につながります。ただし、やむを得ない理由は、法令対応したくない、時間がないなど消極的或いはコンプライアンス意識が低いことが理由とはならないので注意する必要があります。
- 方針・計画の記録: 税務調査が入った際に「対応を検討している」ことが示せるよう、将来的な電子保存対応の予算・体制の構想(導入計画)を記録し、社内で共有しておく。
こうした「備え」を行っておくことで、導入までのつなぎの対応になります。
「導入しない」はリスクを先送りしているだけです

今すぐ導入できない場合のつなぎの対応もご紹介しましたが、できるだけ早く電子帳簿保存法に対応できるシステム導入や社内体制の構築をしなければ、法的リスク・業務コスト・信用リスクのいずれの面でも不利になります。
猶予期間が終了した今、対応を先延ばしにすることは、「リスク管理を怠る」ことと同じです。
短期的に「紙運用」を続ける場合でも、「将来、必ず本格導入する」という構えを持つことが、企業が取るべき最も賢明なリスクヘッジです。
電子化は税法対応だけでなく、企業の競争力を高めるためにも避けて通れない道です。
この機会に、本格的な導入計画をスタートさせましょう。