電子帳簿保存法の改正により、企業が文書管理を行う上で取引書類のデータによる一元管理の必要性が生じるため、国税関係書類の「スキャナ保存」を導入する企業が急速に広がっています。
これまで紙で受け取っていた請求書や領収書を、スキャナやスマートフォンなどで読み取り、電子データとして保存し、原本を廃棄することもできます。
電子帳簿保存法で規定されるスキャナ保存の保存要件は、近年の改正でかなり要件が緩和され、法令要件に対応するシステムやソフトウエアが多く販売されるようになり経理業務のデジタル化が一気に加速しています。
一方で、制度の内容を正しく理解しないままデータで保存を開始してしまうと、「タイムスタンプの付与ができていない」「保存期間や検索要件を満たしていない」といった理由で、税務調査の際に不備を指摘されるケースも少なくありません。
制度を上手に活用すれば大きな効率化につながりますが、ルールを誤解するとリスクにもなり得る――それがスキャナ保存の難しいところです。
この記事では、電子帳簿保存法におけるスキャナ保存の基本的な仕組みや要件をはじめ、導入によって得られる具体的なメリット、そしてスムーズに運用を始めるための手順を、専門的な視点からわかりやすく解説します。
これから電子化を進めたい方や、すでに導入を検討している経理担当者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
自社で安全かつ効率的にスキャナ保存を運用するために必要なポイントを整理し、失敗しない導入のヒントをお伝えします。
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電子帳簿保存法における「スキャナ保存」とは

スキャナ保存とは、紙で受け取った請求書・領収書・契約書などをスキャンし、電子データとして保管できる制度です。
電子帳簿保存法で保存要件が規定されており、導入するためには法令要件に対応したシステムやソフトウエアが必要です。
従来は「紙の原本を7年間保管すること」が義務付けられていましたが、法改正により、法令要件を満たせば電子データを原本と同等に扱えるようになりました。
これにより、企業は紙の保管スペースを削減できるだけでなく、検索性や共有性が格段に向上し、経理業務のスピードアップにもつながります。
主な対象書類
スキャナ保存の対象となるのは、税法で保存義務が規定されている取引書類となり、取引証憑や経費精算に関わる紙書類です。
具体的には次のような書類が該当します。
- 請求書・領収書など主に経理部署で扱う書類
- 契約書・注文書・納品書・見積書など現場部署で扱う書類
こうした書類を電子化して管理することで、検索や共有が容易になり、社内の情報管理も効率的に行えるようになります。
紙に依存していたこれまでの業務を見直すきっかけにもなり、バックオフィスのDX推進に大きく貢献する仕組みといえるでしょう。
スキャナ保存の主な要件(2024年対応版)
スキャナ保存を行うには、電子帳簿保存法で定められた機能的要件・運用的要件を満たす必要があります。
主な要件は以下の通りです。
| 要件区分 |
内容 |
| 真実性の確保 |
改ざん防止のため、速やかにタイムスタンプ付与(総務大臣が認定するタイムスタンプが必要)
付与されたタイムスタンプの検証機能(一括して検証する機能も必要)
訂正および削除を行った場合の履歴管理機能 |
| 可視性の確保 |
ディスプレイやプリンタで整然とした形式で明瞭に出力・表示できることい |
| 入力機器の要件 |
カラーでスキャン(RGB256階調)
解像度200dpi以上で入力 |
| 検索機能 |
「日付・金額・取引先」の項目で検索できること
日付及び金額情報は範囲指定ができ検索結果のみ表示されること
2つ以上の複合条件設定ができること |
| 入力期限 |
書類の受領から2か月+おおむね7営業日以内にスキャンしタイムスタンプを付与(請求書・領収書など重要な書類のみ) |
| システム書類 |
操作マニュアルや仕様書を備え付けておくこと |
| 運用用件 |
スキャナ保存の手順を定めた社内規定を整備し運用すること |
また、以前の厳しい法令要件であった「自署要件(領収書に自分の名前を記入しスキャン)」や「特に速やかに入力(3日以内)する期限」「適正事務処理用件(相互牽制体制・定期検査体制・改善体制)は撤廃され、導入ハードルが大幅に下がっています。
スキャナ保存を導入するメリット
スキャナ保存の導入は、単なるペーパーレス化にとどまりません。
業務全体の効率化やガバナンスの強化、そしてコンプライアンス体制の確立に大きく寄与します。
まず、紙の書類を電子化することで、倉庫やキャビネットなどの保管スペースが不要になります。
これにより、保管コストの削減だけでなく、オフィスの省スペース化も実現できます。
また、電子化されたデータは「日付」「金額」「取引先」などで簡単に検索できるため、必要な書類を探す手間が大幅に軽減されます。
これにより、経理担当者の作業スピードも向上し、経費精算や支払い処理の自動化にもつながります。
さらに、監査や税務調査の際には、電子データをすぐに提示できるため、従来の紙書類のように探す手間がありません。
法令遵守(コンプライアンス)の面でも透明性が高まり、企業としての信頼性向上にも寄与します。
特に、書類量が多い建設業や製造業では、スキャナ保存の導入によって年間数百時間もの工数削減が可能とされています。
単にデジタル化するだけでなく、業務の質そのものを高める仕組みとして活用できるのが最大の魅力です。
スキャナ保存導入の流れ
スキャナ保存の導入は、単にシステムを導入すれば完了するものではありません。
法令要件を満たす体制構築と、日常業務の中で運用を継続できる仕組みづくりが不可欠です。
以下のステップを踏むことで、実務に即したスキャナ保存体制を整えることができます。
まず初めに行うべきは、「対象書類の選定」です。
すべての書類を電子化する必要はなく、法的に保存義務のある書類や、業務上頻繁にやり取りする請求書・領収書・契約書などから優先的に着手します。
この段階で、取引先との運用調整(紙・電子の併用期間など)も検討しておくとスムーズです。
次に重要なのが、「電子帳簿保存法対応システムの選定」です。
電子帳簿保存法で規定される機能要件(真実性・可視性・検索性)を満たすだけでなく、社内の承認フローや経理システムとの連携性も重視すべきポイントです。
建設業や製造業のように請求・支払いフローが複雑な業種では、請求書承認から支払いまで一貫管理できるクラウド型システム(例:PayStructなど)が有効です。
システム選定後は、社内の「運用ルール整備」に移ります。
具体的には、スキャンのタイミング(例:受領後〇日以内)、などの入力する手順の策定、承認者の指定、保存期間、ファイル命名ルール、削除基準などを明文化し、社内規程に反映させます。
また、改ざん防止のためのタイムスタンプ設定や、履歴管理の有効化を忘れてはいけません。
これらは税務調査時に「真実性の確保」を証明する根拠となります。
導入後はいきなり本運用せず、「テスト運用」を実施することが推奨されます。
テストでは、実際の経費精算書や請求書データを用いて、スキャン手順・承認経路・検索機能・タイムスタンプ付与の流れを検証します。
この過程で不具合や運用上の課題を洗い出しておくことで、税務調査・監査への備えが万全になります。
これらの一連の流れを経て、初めて「形式的な導入」から「業務に根付いた運用」へと移行できます。
スキャナ保存制度は、単なる電子化ではなく、経理・総務・情報管理を横断した「企業内部統制の強化策」として捉えることが成功の鍵です。
スキャナ保存に関する注意点とよくある誤解
スキャナ保存は一見シンプルに見えますが、実際には法令で細かく定められた要件を満たさないケースが少なくありません。
特に中小企業では「PDFで保存しているから大丈夫」と誤解されがちですが、単なる電子データ化だけでは要件を満たさない点に注意が必要です。
まず、PDF保存だけでは不十分です。
電子帳簿保存法では「真実性の確保」が求められており、改ざん防止措置としてタイムスタンプの付与または改ざん防止システムによる履歴管理が必須です。
これを怠ると、税務調査時に「証憑として無効」と判断される可能性があります。
また、タイムスタンプには付与期限があり、書類の受領から最長2か月+おおむね7営業日以内に処理する必要があります。
この期限を過ぎて付与した場合、そのデータは法的に認められない場合がありますので期限を徒過して入力した場合にはデータ保存のほかに原本の保存も必要となります。
さらに、自社で独自にシステムを構築して運用する場合には、操作マニュアルや仕様書を備え付けておくことが義務付けられています。
これらは、システム運用の正当性を証明するための書類として税務署から提示を求められることがあります。
バックアップ体制の整備も見落とされがちなポイントです。
サーバー障害や誤削除によって電子データが失われた場合、法的な保存義務を果たせなくなるため、定期的なバックアップ保存とアクセス権限の管理を徹底する必要があります。
また、スキャン画像の解像度やサイズが低すぎる場合も注意が必要です。
印字内容が読みにくい、または判別不能な状態では証憑として認められないことがあります。
国税庁が示す「見読可能性」の基準を満たすよう、適切なスキャナ設定を行うことが求められます。
導入の際は、国税庁が公開している**「電子帳簿保存法一問一答(スキャナ保存関係)」**を必ず確認し、制度の最新動向を踏まえた運用を行うことが重要です。
制度改正は頻繁に行われるため、年に一度は社内ルールやシステム設定を見直すことをおすすめします。
電子帳簿保存法対応システムの選び方
スキャナ保存を適切に運用するためには、法令に正式対応したシステムを選定することが欠かせません。
「どのツールを選んでも同じ」と考えるのは危険で、要件を満たさないソフトを使うと、保存データが税務上無効になる可能性があります。
まず確認すべきは、電子帳簿保存法対応を公式に明記しているかどうかです。
国税庁のガイドラインに沿って設計されている製品を選ぶことで、導入後の監査対応がスムーズになります。
次に、タイムスタンプ機能または改ざん防止履歴機能の有無を確認します。
これらの機能は「真実性の確保」に不可欠であり、認定タイムスタンプ事業者のタイムスタンプが付与でき検証機能を有するシステムであれば問題ありません。
さらに、電子帳簿保存法の検索要件である「日付・金額・取引先」の3項目での検索や、日付情報や金額情報の範囲指定設定、2以上の項目による複合条件設定ができる機能を備えているかも重要です。
検索性能が不十分だと、調査時の対応に時間がかかり、結果的に業務リスクを高めることになります。
請求書や領収書は取引先ごとに形式が異なるため、柔軟に対応できるシステムが望ましいです。
そして、バックアップ体制とアクセス管理の安全性も見逃せません。
データ保護と内部統制の観点から、クラウド型で自動バックアップが行われるサービスが安心です。
代表的な対応システムとしては、freee、マネーフォワード、OBC奉行シリーズなどが挙げられますが、特に建設業や製造業のように決裁・支払いプロセスが複雑な業種では、
**請求書承認から支払いまでを一元管理できる「PayStruct(ペイストラクト)」**のような業務連携型クラウドが適しています。
このようなシステムを導入することで、法令遵守を確実にしながら、経理業務全体の効率化と内部統制の強化を同時に実現することが可能です。
まとめ|スキャナ保存で電子帳簿保存法にスマート対応

スキャナ保存は、電子帳簿保存法の中でも導入効果が高く、経理・総務部門の業務を大幅に効率化します。
要件を正しく理解し、法令対応をしながら業務DXを進めることが、今後の企業経営に欠かせません。
もし「社内にスキャナ保存体制をどう構築すればいいかわからない」という場合は、
電子帳簿保存法対応に強いシステムを導入するのが近道です。