
「請求書の処理にまた深夜まで…でもシステム導入には予算が…」毎月の締め作業で残業続きの経理担当者なら、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。実際に、中小企業の経理担当者の約78パーセントが「業務効率化したいが予算確保が困難」と回答している調査結果があります。しかし、国や地方自治体が提供する様々な補助金制度を活用すれば、大幅な費用負担軽減でシステム導入が可能です。問題は「どの補助金が自社に最適なのか分からない」「申請要件や手続きが複雑で比較できない」という点です。IT導入補助金、ものづくり補助金、持続化補助金など、似たような名前の制度が複数存在し、それぞれ補助額、対象経費、申請条件が異なります。本記事では、経理業務の効率化を目指す担当者の視点で、主要なDX補助金制度を詳しく比較し、あなたの会社に最適な制度の選び方をご案内します。実際の申請難易度や採択率、活用事例も交えながら、実践的な選択指針をお伝えします。
経理担当者が知っておくべき主要DX補助金制度一覧

補助金制度の全体像
中小企業の経理業務効率化に活用できる主要な補助金制度は以下の通りです。まずは全体像を把握しましょう。
- IT導入補助金(最も活用しやすい制度)
- ものづくり補助金(大規模投資向け)
- 小規模事業者持続化補助金(小規模企業特化)
- 事業再構築補助金(事業転換時活用)
- 地方自治体独自補助金(地域限定制度)
それぞれの制度には明確な特徴と適用条件があり、経理業務の課題や会社の規模に応じて最適な選択肢が変わります。
重要なポイント:補助金は後払い制度のため、まず自社で投資を行い、後から補助金が支給されます。資金調達計画も含めて検討することが必要です。
IT導入補助金:経理担当者に最適な制度

制度の基本情報
IT導入補助金は、経理業務の効率化を目的とする中小企業にとって最も活用しやすい制度です。
基本スペック比較
- 補助額:5万円〜450万円
- 補助率:2分の1〜4分の3
- 申請期間:年4〜5回の公募
- 申請難易度:★★☆☆☆(比較的容易)
- 採択率:約60〜70パーセント
- 支給までの期間:採択後3〜6ヶ月
経理業務での対象システム例
IT導入補助金で導入可能な経理関連システムの具体例をご紹介します。
会計・財務系システム
- クラウド会計ソフト(freee、マネーフォワード、弥生等)
- 請求書発行・管理システム
- 経費精算システム
- 給与計算システム
- 債権・債務管理システム
- 予算管理・経営分析システム
業務効率化系システム
- 電子契約システム
- 文書管理システム
- ワークフロー(承認)システム
- 顧客管理システム(CRM)
- 在庫管理システム
- 勤怠管理システム
申請の要件と注意点
申請要件
- 中小企業・小規模事業者であること
- 認定されたITツールの導入であること
- IT導入支援事業者との連携が必要
- 導入後の効果報告義務あり
- セキュリティ対策の実施が必要
活用事例と効果
従業員25名の卸売業A社では、IT導入補助金を活用してクラウド会計システムを導入。システム費用120万円のうち80万円を補助金で賄い、自己負担40万円で導入しました。導入後、月次決算作業時間が5日から2日に短縮し、年間約180万円の人件費削減効果を実現しています。
ものづくり補助金:大規模システム投資向け

制度の特徴と適用条件
ものづくり補助金は、製造業以外のサービス業でも活用可能で、大規模なシステム投資に適しています。
基本スペック比較
- 補助額:100万円〜3000万円
- 補助率:2分の1〜3分の2
- 申請期間:年3〜4回の公募
- 申請難易度:★★★★☆(やや高い)
- 採択率:約45〜55パーセント
- 支給までの期間:採択後6〜12ヶ月
経理業務での活用シーン
対象となる投資例
- 基幹システム(ERP)の全面刷新
- 複数システムの統合プラットフォーム構築
- AI・機械学習を活用した高度分析システム
- 大規模データベース・サーバー投資
- セキュリティ強化のためのシステム投資
- 業務自動化(RPA)システムの本格導入
IT導入補助金との比較
項目 |
IT導入補助金 |
ものづくり補助金 |
適用規模 |
小〜中規模投資 |
中〜大規模投資 |
申請難易度 |
比較的容易 |
やや困難 |
事業計画書 |
簡易版 |
詳細版必須 |
導入期間 |
短期(3〜6ヶ月) |
長期(6〜18ヶ月) |
ものづくり補助金は投資規模が大きい分、事業計画書の作成や効果測定により多くの時間と労力が必要です。専門家のサポートを受けることを強く推奨します。
小規模事業者持続化補助金:小規模企業特化制度

小規模企業に最適化された制度
従業員20名以下の小規模事業者向けに特化した使いやすい補助金です。
基本スペック比較
- 補助額:50万円〜200万円
- 補助率:3分の2〜4分の3
- 申請期間:年4回程度の公募
- 申請難易度:★★☆☆☆(比較的容易)
- 採択率:約50〜60パーセント
- 支給までの期間:採択後4〜8ヶ月
経理業務での活用範囲
対象となる取り組み例
- 基本的な会計ソフトの導入
- 請求書作成・管理システムの導入
- クラウドストレージサービスの活用
- 電子契約システムの導入
- ホームページ作成・リニューアル
- オンライン販売システムの構築
他制度との使い分け指針
持続化補助金を選ぶべきケース
- 従業員数が20名以下の小規模事業者
- 投資額が200万円以下の範囲
- 販路開拓と業務効率化を同時に実現したい
- 申請手続きをできるだけ簡素化したい
- 地域の商工会議所等のサポートを受けられる
事業再構築補助金:事業転換時の活用

事業変革に伴うDX投資支援
コロナ禍や市場環境の変化により事業転換を図る企業向けの大型補助金です。
基本スペック比較
- 補助額:100万円〜1億円
- 補助率:2分の1〜4分の3
- 申請期間:年3〜4回の公募
- 申請難易度:★★★★★(非常に高い)
- 採択率:約30〜40パーセント
- 支給までの期間:採択後12〜24ヶ月
経理業務での活用シーン
適用可能な事業転換例
- デジタル化による新サービス展開
- オンライン販売への本格参入
- サブスクリプション事業への転換
- データ活用ビジネスの開始
- 完全リモートワーク体制の構築
- AI・IoTを活用した新事業創出
注意点と活用条件
- 単純な業務効率化では対象にならない
- 新事業による売上が総売上の10パーセント以上必要
- 詳細な事業計画書と市場分析が必須
- 認定経営革新等支援機関のサポートが必要
- 事業計画の実現可能性が厳格に審査される
地方自治体独自補助金:地域特化制度

都道府県・市町村レベルの支援制度
国の制度に加えて、地方自治体独自の補助金も有効活用できます。
主要自治体の制度例
東京都
- 中小企業デジタルツール導入促進支援事業
- 補助額:最大100万円
- 補助率:3分の2
- 特徴:申請手続きが簡素、IT導入補助金との併用可能
大阪府
- 中小企業デジタル化促進事業
- 補助額:最大200万円
- 補助率:2分の1
- 特徴:府内企業同士の連携重視、継続的サポートあり
愛知県
- 中小企業DX推進補助金
- 補助額:最大150万円
- 補助率:3分の2
- 特徴:製造業に特化、技術革新重視
地方自治体補助金の探し方
- 自治体の公式ホームページで最新情報を確認
- 商工会議所・商工会での相談
- 中小企業支援センターでの情報収集
- 補助金検索サイトの活用
- 税理士・中小企業診断士からの情報提供
- 同業他社との情報交換
補助金制度の比較表と選択指針

総合比較表
制度名 |
補助額 |
補助率 |
申請難易度 |
適用規模 |
IT導入補助金 |
5〜450万円 |
1/2〜3/4 |
★★☆☆☆ |
小〜中規模 |
ものづくり補助金 |
100〜3000万円 |
1/2〜2/3 |
★★★★☆ |
中〜大規模 |
持続化補助金 |
50〜200万円 |
2/3〜3/4 |
★★☆☆☆ |
小規模特化 |
事業再構築補助金 |
100〜10000万円 |
1/2〜3/4 |
★★★★★ |
事業転換時 |
地方自治体 |
50〜300万円 |
1/2〜3/4 |
★★★☆☆ |
地域限定 |
会社規模別の選択指針
従業員5名以下の小規模企業
- 第1選択:小規模事業者持続化補助金
- 第2選択:IT導入補助金(デジタル化基盤導入枠)
- 第3選択:地方自治体独自補助金
- 推奨理由:申請手続きが簡素で採択率も比較的高い
従業員6〜30名の中小企業
- 第1選択:IT導入補助金
- 第2選択:ものづくり補助金(大規模投資時)
- 第3選択:地方自治体独自補助金
- 推奨理由:対象システムが豊富で実用性が高い
従業員31名以上の中規模企業
- 第1選択:ものづくり補助金
- 第2選択:IT導入補助金(複数併用)
- 第3選択:事業再構築補助金(事業転換時)
- 推奨理由:投資規模に見合った補助額が期待できる
申請成功のための実践的アドバイス

申請前の準備チェックリスト
必須準備書類
- 法人登記簿謄本(発行から3ヶ月以内)
- 決算書・財務諸表(直近2〜3期分)
- 納税証明書(法人税・消費税)
- 従業員数証明書類(雇用保険被保険者数等)
- 事業概要書(会社パンフレット等)
- 導入予定システムの見積書
事業計画書作成のポイント
- 現状の課題を具体的な数値で表現
- 導入効果を定量的に予測
- 投資回収期間を明確に算出
- 競合他社との差別化ポイントを明記
- 実現可能性の根拠を論理的に説明
- リスクと対策を事前に検討
採択率を高める戦略
加点項目の積極活用
- 賃金引上げ計画の策定
- 被用者保険の任意適用事業所の申請
- インボイス制度への対応
- 地域未来投資促進法の地域経済牽引事業計画の承認
- 導入するシステムのセキュリティ要件充足
専門家活用の重要性
- 認定支援機関(税理士・中小企業診断士等)との連携
- IT導入支援事業者からの技術的サポート
- 申請書作成の専門家による添削
- 過去の採択事例の分析と学習
成功のコツ:補助金申請は「早い者勝ち」の側面があります。公募開始前から準備を始め、申請開始と同時に提出できる体制を整えることが重要です。
複数補助金の併用戦略

併用可能なパターン
条件によっては複数の補助金を効果的に組み合わせることができます。
併用可能な組み合わせ例
- IT導入補助金 + 地方自治体補助金(異なる用途)
- 持続化補助金 + IT導入補助金(時期をずらして)
- ものづくり補助金 + 人材開発支援助成金
- 事業再構築補助金 + 地方創生関連補助金
併用時の注意点
- 同一経費への重複申請は絶対に禁止
- 各制度の要件をそれぞれ満たす必要
- 申請・報告業務の負担が大幅に増加
- 事前に各制度の事務局への確認が必須
- 資金調達計画の慎重な検討が必要
まとめ:経理担当者のための最適な選択戦略

中小企業DX補助金は、経理業務の効率化を大幅な費用負担軽減で実現できる貴重な制度です。重要なのは、自社の規模、課題、投資計画に最も適した制度を選択することです。
経理担当者として押さえるべきポイントは以下の通りです。まず、小規模な効率化から始めたい場合はIT導入補助金や持続化補助金を、大規模なシステム刷新を検討している場合はものづくり補助金を選択しましょう。申請の準備は時間がかかるため、公募開始前から計画的に進めることが成功の鍵です。
また、専門家のサポートを受けることで採択率を大幅に向上させることができます。一度の申請で不採択になっても諦めず、改善点を見つけて再挑戦することも重要です。
これらの補助金制度を効果的に活用して、経理業務の大幅な効率化と働き方改革を実現してください。適切な準備と戦略により、必ず大きな成果を得ることができるはずです。
※本記事は2025年6月時点の情報に基づいており、補助金制度の内容は変更される可能性があります。
申請にあたっては必ず最新情報をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。