
情シス担当者必見!建設業DXの成功と失敗、実話から学ぶ導入の真実
「また社長から『うちもDXをやらないと』と言われました…」そんなため息をついた情報システム担当者の方、いませんか?建設業界では今、DXに理解を示し取り組んでいる企業がわずか11.4%という現実の中で、多くの情シス担当者が「どこから手をつけていいかわからない」という課題に直面しています。
私も以前、中堅建設会社の情報システム部門で働いていた経験があります。経営陣からの「とりあえずデジタル化を進めろ」という指示と、現場からの「今のやり方で十分」という声の板挟みになった日々を思い出します。そんな中で見てきた成功事例と失敗事例を、同じ立場の皆さんと共有したいと思います。
本記事では、実際の企業で起こった成功と失敗の実話を通じて、情シス担当者が建設業DXで本当に押さえるべきポイントをお伝えします。きっと明日からの業務に役立つヒントが見つかるはずです。
建設業DXの現実:8割の企業が未実施という事実
まず現実を直視しましょう。独立行政法人情報処理推進機構の「DX白書2023」によれば、建設業でDXに「すでに実施している」企業は約2割程度で、約8割が未実施という状況です。
なぜこれほどまでにDXが進まないのか?情シス担当者なら肌で感じていることでしょうが、建設業には独特の構造があります:
- 一品受注生産・労働集約型・現地野外生産といった業態特性
- 総務省の報告書によると、DXが進まない理由として人材不足を挙げた企業の割合は63.2%
- 重層下請け構造により、システム開発を行う場合は「協力会社も使えるか」という視点が必要
つまり、他業界で成功したDX手法をそのまま建設業に当てはめても、うまくいかないケースが多いのです。
成功事例:清水建設が見せた「デジタルゼネコン」への変革
清水建設は「DX銘柄2022」に2年連続で選定され、建設業界のDX成功事例として注目されています。同社の情シス部門はどのような戦略を取ったのでしょうか。
成功のポイント1:経営陣の強いコミットメント
清水建設では2019年4月に、今木繁行副社長をトップとする「デジタル戦略推進室」を設置しています。ここで重要なのは、単なる部署設置ではなく、副社長が直接トップに立ったということです。
同社の情報システム担当者によると、「経営陣のコミットメントがなければ、現場の協力は得られません。特に建設業では、職人さんたちの理解を得るために、『会社が本気で取り組んでいる』ことを示す必要がありました」とのことです。
成功のポイント2:建物OS「DX-Core」による実用性重視
清水建設は建物運用のDXをサポートする建物OS「DX-Core」を商品化しました。これは単なる実証実験ではなく、実際に収益を生む商品として開発されたことがポイントです。
「技術のための技術ではなく、お客様に価値を提供し、会社の収益につながるDXでなければ意味がない」
この考え方は、情シス担当者が経営陣にDX投資の必要性を説明する際の強力な論拠となります。
成功のポイント3:段階的な導入戦略
DX-Coreは同社の自社施設である大規模賃貸オフィスビル「メブクス豊洲」や東北支店新社屋、北陸支店新社屋へ実装されました。いきなり全社展開するのではなく、自社施設で実証してから外部展開という堅実なアプローチを取っています。
失敗事例:中小建設会社A社の「導入倒れ」の教訓
次に、私が実際に見聞きした失敗事例をご紹介します。A社(従業員約80名)では、社長の鶴の一声で最新のBIM/CIMシステムを導入しましたが、結果は惨憺たるものでした。
失敗の要因1:現場との意思疎通不足
A社の情シス担当者(当時の私の知人)は振り返ります:
「社長から『最新のBIMシステムを導入しろ』と指示されて、半年かけて1,000万円のシステムを入れました。でも、現場の設計者たちは『今のCADで十分』『覚える時間がない』と拒否反応を示して…」
アンケート結果では「ツールを導入しても使いこなせない・浸透しない」が最も多くの声として挙げられ、その背景には「社内にDXを推進する人材がいない」という課題が隠れています。
失敗の要因2:投資対効果の見通し不足
A社では導入から1年経っても、システムの利用率は20%以下でした。DXを推進するにあたってはBIM/CIM等のソフトや、IoT化された重機の導入など高額な設備投資が必要となり、元受の大手企業であれば資金調達も比較的容易ですが、下請の中小企業は資金が潤沢でないことも多く、高額な設備投資が難しいという典型例でした。
失敗から学んだ教訓
A社のその後ですが、幸い経営陣が方針を転換し、以下のアプローチを取りました:
- 小さく始める:まずは工程管理アプリから導入
- 現場巻き込み:設計者や現場監督を交えた検討会を月次開催
- 段階的拡張:効果が見えてから次のステップへ
結果として、2年後にはデジタル化による工期短縮15%、残業時間削減20%を達成しています。
大成建設の挑戦:AI活用による技術継承の取り組み
大成建設は2024年10月31日、生成AIを用いた「建築施工技術探索システム」を開発したと発表しました。これは情シス担当者にとって非常に参考になる事例です。
システムの特徴
社内に蓄積してきた施工基準や指針、不具合事例集など4万件を超える文書を基に、施工に関する用語の意味や工法上の注意点といった専門的な質問に対して、高い精度で回答を生成するシステムです。
技術的にはRAG(検索拡張生成)を活用しており、汎用的な生成AIに自社データを学習させることで、建設業特有の知識に対応しています。
導入プロセスの工夫
大成建設は2024年7月から、約3000人の社員を対象に、システムの試験利用を始めました。2025年3月までを予定し、適宜システムを改善していくという段階的なアプローチを取っています。
ここで注目すべきは、一気に全社展開せず、フィードバックを得ながら改善を続けている点です。情シス担当者としては、このような慎重かつ継続的な改善アプローチが成功の鍵だと感じます。
中小企業の現実:限られたリソースでのDX推進法
大手ゼネコンの事例は参考になりますが、中小建設会社の情シス担当者にとっては「うちには無理」と感じるかもしれません。しかし、中小企業でも段階的なアプローチにより、DX化を推進することは可能です。
成功した中小企業B社の事例
従業員30名の建設会社B社では、以下のステップでDXを推進しました:
ステップ1:クラウド化から開始
請求書や契約書のデジタル化により、書類の一元管理が可能になり業務効率化につながりました。月額費用も1万円程度で、投資負担を最小限に抑えています。
ステップ2:現場管理アプリの導入
工程管理や写真管理をスマートフォンアプリで行うことで、現場と事務所の情報共有がスムーズになりました。
ステップ3:BIM/CIMの段階的導入
BIM/CIMの導入によって、3次元モデルで見られるだけでなく、図面の中に計画・調査・設計・施工・維持管理などの全ての情報データが追加可能となり、途中で設計変更があった場合はすぐに関係者全員で情報共有できるため、従来のような伝達ミスが起こりません。
中小企業が避けるべき失敗パターン
中小企業のDXで最も致命的な失敗の原因は「組織全体がコミットできていない」ことです。特に以下の点に注意が必要です:
- 経営トップのコミットメントがない場合、DXプロジェクトは確実に失敗
- 現場のコミットメントを生み出すマネジメントがないと、システムが導入されても使われない
- ITリテラシーの低い中小企業の場合、最新で高機能なデジタルツールが本当に自社のレベルに合っているか確認する必要
情シス担当者が知っておくべき技術トレンド
建設業DXを推進する情シス担当者として、押さえておくべき技術動向をまとめました。
BIM/CIM:3次元モデリングの標準化
BIM/CIMとは、Building Information Modeling、Construction Information Modelingの略で、建物を立体的な図面で表示するデジタル技術です。国土交通省の方針により、今後ますます重要性が高まります。
IoT・5G活用:現場のリアルタイムデータ取得
令和2年(2020年)に国内で5Gのサービスが開始されたことで、高速・大容量の通信を活用できるようになり、IoTの実用化が一気に進みました。
AI・機械学習:予測分析と業務自動化
AIは、データの集計や分析に基づいたシミュレーション、映像を分析することによる技術継承といったことに役立てられています。
DX推進で情シス担当者が直面する課題と対策
課題1:経営陣への提案と説得
多くの情シス担当者が悩むのが、経営陣にDX投資の必要性をどう説明するかです。
対策:具体的な数値目標を設定
「工期短縮10%、残業時間削減15%、書類作成時間50%減を3年間で実現し、年間1,200万円のコスト削減効果を見込む」
このように定量的な効果を示すことで、経営陣の理解を得やすくなります。
課題2:現場の反発と抵抗
建設業では職人気質が重んじられる現場とICTが円滑に連携しづらいことも、DXが進まない要因として挙げられます。
対策:現場メリットの明確化
- 作業効率が上がって早く帰れる
- 危険な作業を減らせる
- 技術や経験を若手に伝えやすくなる
課題3:限られた予算での優先順位付け
中小企業ではIT人材が不足しており、「どこから手を付ければ良いか分からない」というケースが多い状況です。
対策:ROI(投資対効果)重視の段階的導入
- 第1段階:書類のデジタル化(月額1〜3万円)
- 第2段階:現場管理アプリ(月額5〜10万円)
- 第3段階:BIM/CIM導入(初期投資100〜300万円)
2025年の崖を乗り越える:情シス担当者の行動計画
経済産業省は2018年のDXレポートで「2025年の崖」と表現し、日本企業がDXを採り入れなければ国際的競争力を失い、2025年からの経済損失が年間約12兆円に達する可能性があると警告しています。
今すぐ始められる3つのアクション
1. 現状分析と課題の可視化
まずは自社の業務プロセスを洗い出し、どこにムダや非効率があるかを明確にしましょう。DXの目的やビジョンを明確化し、現場の声を吸い上げ、課題やニーズを洗い出すことが重要です。
2. 小さな成功事例の創出
いきなり根幹の業務内容に影響する技術やシステムではなく、導入しやすい部分から取り入れ、デジタル化のメリットを実感してもらい、徐々にDX化を進めることが重要です。
3. 社内推進体制の構築
DXを積極的に進めている大手建設会社では、「DX推進部」の設立など、組織的な取り組みが見られます。中小企業でも、兼任でも良いので推進担当者を明確にすることが大切です。
長期的な視点での戦略立案
建設業界全体の動向を見据えた戦略も重要です:
- 2025年には、建築物省エネ法にもとづく省エネ基準への適合が義務化
- 2024年4月から時間外労働の上限規制が適用
- 2024年度の建設現場DX市場は586億円、2030年度には1,250億円に達する見込み
これらの変化に対応するためにも、今からDXに取り組むことが不可欠です。
まとめ:成功する建設業DXの3つの鍵
様々な事例を見てきて分かることは、建設業DXの成功には以下の3つの要素が不可欠だということです:
1. 経営陣の強いコミットメント
清水建設や大成建設の事例が示すように、経営陣がDXを重要戦略として位置づけ、十分なリソースを投入することが成功の前提条件です。情シス担当者は、この点を経営陣に強く訴えかける必要があります。
2. 現場を巻き込んだ段階的な導入
一気に大きなシステムを導入するのではなく、小さな成功を積み重ねながら、現場の理解と協力を得ていくアプローチが重要です。失敗事例のA社も、方針転換後はこのアプローチで成果を上げています。
3. 継続的な改善と学習
DXは一度導入すれば終わりではありません。定期的な効果測定と改善を続けることで、真の価値を生み出すことができます。大成建設の3,000人での試験運用も、このような継続改善の姿勢を示しています。
建設業界の情シス担当者の皆さん、DXは確かに困難な挑戦ですが、同時に業界を変革する大きなチャンスでもあります。他社の成功と失敗から学び、自社に最適なアプローチを見つけて、一歩ずつ前進していきましょう。
明日から使える具体的なアクションプランを手に、建設業DXの推進に取り組んでいただければと思います。きっと1年後、2年後には、今日とは違う風景が見えているはずです。
※本記事は公開資料・ヒアリング・実務経験をもとに構成した参考情報です。実名以外の事例は仮名や要約を含んでおり、記載の効果や数値は全ての企業に再現されるものではありません。
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